はじめに
「不適切ケア」とは、直接的な「虐待」とまではいかなくても、その一歩手前、あるいは虐待につながる可能性のあるケアのことを指します。例えば、ベッドへ寝かせる際に掛け布団を勢いよくかける行為。「あの人のナースコールはいつも大したことがないから」と、ナースコールが鳴っていても対応を後回しにする行為。身体的な怪我がなくても、施設職員としてふさわしくない対応や、現状は偶然にも何も起こっていなくても、今後事故につながる可能性がある行為、また、ご入居者様が精神的に深く傷ついたと感じる場合も、不適切ケアに該当すると考えられます。
不適切ケアの報告は、ご家族様にとって大きな不安と動揺をもたらすものです。しかし、感情的にならず冷静に対応することが、問題の早期解決と大切なご家族様の安全確保に繋がります。この記事では、不適切ケアの報告を受けた際の心構えと、具体的な対応ステップについて解説します。ご参考になれば幸いです。
1. 報告の受け止め方:まずは冷静に、事実を把握する
報告の背景を理解する
はじめに、誰からの報告かを確認しましょう。施設職員、課長、施設長、医師、あるいは外部の職員など、報告者の立場を確認することで、施設の状況が見えてくることがあります。施設内部からの指摘(課長、施設長、部署のリーダーなど)は、施設全体が悪なのではなく、問題を指摘し改善しようとする環境が整っていると捉えることもできます。一方で、外部の職員や団体からの報告である場合、施設内での解決が難しかった可能性があり、職場風土に問題がある可能性も考えられます。
感情的にならず、事実確認に徹する
報告を聞いて、大切なご家族様に危険があったことを知り、頭に血がのぼるお気持ち、よくわかります。しかし、どうかまずは感情的にならず、事実確認に徹することが大切です。「訴訟」「慰謝料」「弁護士」といった言葉は、この段階では避けましょう。これらの言葉を安易に出すと、解決が泥沼化し、かえって事態を複雑にすることがあります。まずは冷静に、事実関係の把握に努めましょう。
事実関係の正確な把握とは、何が、いつ、どこで、誰によって、どのように行われたのか、具体的な状況についてです。曖昧な点がないか、しっかりと確認しましょう。早期報告を優先して、最初の報告ではまだわからないことも多いかもしれません。その際は、正確なことがわかった際には、再度報告してほしいことを伝え、曖昧にしないことが大切です。
現時点での事実関係を把握した後は、その不適切ケアに対してどのような対策が取られたのか、今後同様の危険性はないのかを確認します。
2. 事実確認と情報収集:具体的な状況を把握する
施設への問い合わせ
•電話での確認: 施設ではなく外部の職員や団体から報告があった場合、施設へ電話で状況を確認します。この際、感情的にならず、具体的な情報を引き出すことに集中しましょう。
•直接面談の申し出: 電話での説明で納得できない場合は、直接施設を訪問し、担当者と面談する機会を設けてもらいましょう。遠距離ですぐに駆けつけることが難しい場合は、再度改めて電話で詳しく話を聞くことも大切です。
•記録の開示請求: 必要に応じて、介護記録やヒヤリハット報告書など、関連する施設の記録の開示を求めることも検討します。ただし、個人情報の観点から他のご家族様情報が含まれている場合は、記録を確認することが難しい場合もあります。
ご入居者様の安全確認
•現在の安全確保: 最も重要なのは、現在ご入居されているご家族様の安全が守られているかを確認することです。不適切ケアが継続していないか、新たな危険がないかを慎重に確認しましょう。
•ご入居者様本人からの聞き取り: 一番の被害者は、施設にご入居されているご本人様です。ご家族様本人から、身体的・精神的な変化や、何か困っていることがないか、直接話を聞く機会を設けましょう。遠距離であるのならば、電話や手紙などを通してでも、ご本人様の味方であること、ご本人様の心配をしていることを伝えることが大切です。
3. 解決へのステップ:順序を踏んで対応する
施設内の苦情窓口の利用
施設との直接交渉で解決に至らない場合、施設の苦情窓口へ相談します。書面で苦情を提出し、記録を残すことも有効です。
第三者機関への相談
施設内で解決が難しい場合、以下の第三者機関への相談を検討しましょう。
•地域の高齢者虐待防止センター
•国民健康保険団体連合会(国保連)の介護保険サービス苦情相談窓口
•自治体の介護保険課
弁護士への相談は、これらの公的な相談窓口を利用した上で、必要に応じて検討する最終手段と捉えましょう。
「争う」のではなく「解決と安全を求める」姿勢で
施設と敵対する姿勢ではなく、「施設へ解決と安全を求める」という姿勢で臨むことが大切です。戦う姿勢では、ご家族様もご本人様も疲弊してしまいます。施設の言葉を無理に納得する必要はありません。しかし、感情的にならず、論理的に状況を説明し、具体的な改善策と再発防止策を求めることが重要です。二度と同じことが起きないよう、今後の対応について具体的な確認を行いましょう。
結論
不適切ケアの報告は、誰にとっても困難な状況です。不適切ケアが行われないことが一番望ましいですが、事実が発覚しなかった場合のほうがとても危険です。冷静に事実を把握し、段階的に適切な対応を取ることで、問題の解決とご家族様の安全確保に繋がります。
不適切ケアの報告は、ご本人様にとっても、それを知ったご家族様にも精神的に負担がかかるものです。デリケートな問題で、知り合いに相談するのが辛い、ということもあると思います。一人で抱え込まず、相談することを強くおすすめします。


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