「転倒しました」──施設からのこの一言に、ご家族様はどれほどの不安を感じられることでしょう。「ちゃんと見ていてくれたの?」「大きなケガはないの?」「また同じことが起きたらどうしよう」と、心配が尽きないのは当然です。大切なご家族を預けているからこそ、冷静ではいられないお気持ち、本当によくわかります。
しかし、その不安な気持ちのまま、強い言葉で施設を問い詰めてしまうと、かえって関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。今回は、介護施設からの転倒報告を受けた際に、ご家族様として「確認したい大切なこと」と、施設と「より良い関係を築きながら、共に解決策を見つける」ためのヒントを、施設職員のリアルな本音も交えてお伝えします。ご家族様の不安な気持ちに寄り添いながら、安心への一歩を踏み出すためのお手伝いができれば幸いです。
施設職員の【本当の】想いと、ご家族様へのお願い
施設側も、ご入居者様の転倒事故は、できれば起こしたくないと心から願っています。これは建前ではありません。しかし、高齢者の方々の生活の中では、どれだけ注意を払っていても、転倒を完全にゼロにすることは非常に難しいのが現実です。だからこそ、職員は事故が起きた時に、「なぜ起きたのか」「防げた可能性はあったのか」「次はどうすれば防げるのか」を真剣に考え、迅速にご家族様へご報告するよう努めています。
ただ、その報告の場で、「報告書を見せてください」「情報開示してください」「責任はどう取るんですか」といった、法的な言葉が強く出てしまうと、職員は委縮し、防衛的になってしまうことがあります。本来、ご家族様に詳しくお伝えしたかったことや、今後の具体的な対策についても、うまく言葉にできなくなってしまうかもしれません。これでは、ご家族様と施設職員の間に見えない壁ができてしまい、お互いにとって良い結果には繋がりません。
転倒報告は、決して施設を責める場ではありません。むしろ、「今後どうすれば、ご家族様がより安全に、安心して過ごせるか」を、施設とご家族様が一緒に考えるための大切な対話の場なのです。もし、強い言葉で責められてしまうと、話し合いは謝罪の応酬となり、建設的な解決策を見つけることが難しくなってしまいます。その結果、施設職員も委縮し、ご入居者様らしい生活を尊重しながらの転倒防止策ではなく、「危ないからやらせない」といった、生活を制限してしまうような防止策を考えてしまう可能性もあります。ご家族様の大切な方が、いきいきと過ごせるためにも、ぜひ穏やかな対話をお願いいたします。
転倒報告を受けたら、まず確認したい大切なこと【施設職員が教える4つのポイント】
連絡を受けたら、まずは深呼吸して、落ち着いて以下の4つのポイントを確認してみましょう。これが、ご家族様の安心に繋がる第一歩です。
① いつ起きたのか
転倒が起きた時間帯は、その原因を探る上で大切な手がかりになります。
•夜間:トイレへの移動中ではありませんでしたか? 夜間の視界の悪さや、眠気によるふらつきが関係しているかもしれません。
•食後:食後の満腹感や、お薬の影響で、お部屋へ戻る際にふらつきがあった可能性は考えられますか?
•入浴前後:入浴によるお疲れや、湯冷めによるふらつきが原因だったのかもしれません。
② どこで起きたのか
転倒した場所は、具体的な予防策を考える上で非常に重要です。危険な場所を特定し、対策を検討していきましょう。
•ベッド横:起き上がり時のふらつきはありませんでしたか? ベッドからの転落防止策は適切でしょうか?
•トイレ:急いでいらっしゃいましたか? 手すりの位置は使いやすかったでしょうか?
•廊下:歩行補助具は適切に使われていましたか? 照明の明るさは十分でしたか?
•食堂:お食事中の姿勢や、移動時の介助は適切でしたか?
•浴室前:床の滑りやすさや、脱衣所でのふらつき対策は万全でしたか?
③ どうして起きたのか(施設の見立てを丁寧に聞きましょう)
施設側からの見立てを、まずはじっくりと聞いてみましょう。そして、さらに詳しく質問することで、より深い原因が見えてくることもあります。
•「歩行が不安定だった」:なぜ不安定だったのでしょうか? その日の体調、履物、歩行補助具の状況など、具体的な要因について尋ねてみましょう。
•「トイレで焦っていた」:なぜ焦ってしまったのでしょうか? トイレへの誘導のタイミング、間に合わないことへの不安、認知症の影響など、背景にある気持ちを考えてみましょう。
•「ご本人が一人で動こうとした」:なぜ一人で動こうとされたのでしょうか? 介助を待てなかった理由、ご本人の意思、職員の見守り体制など、様々な側面から考えてみましょう。
•「認知症による判断の難しさ」:具体的にどのような判断の難しさがあったのでしょうか? それに対して施設側はどのように対応されたのか、確認してみましょう。
④ 今後の防止策(ご家族様の安心に繋がる具体的な対策を)
ここが、ご家族様にとって最も大切なポイントです。「次はこうします」という具体的な対策が明確であればあるほど、安心感に繋がります。曖昧な返答ではなく、具体的な内容を確認していきましょう。
•センサーマット導入:具体的にどの場所に、どのようなタイプのものを導入する予定でしょうか?
•見守り強化:具体的にどの時間帯に、誰が、どのように見守りを強化してくださるのでしょうか?
•トイレ誘導の時間調整:ご本人の排泄パターンに合わせて、どのように調整してくださるのでしょうか?
•歩行器の使用見直し:現在の歩行器は適切でしょうか? 別のタイプを検討したり、使用方法を再指導したりする予定はありますか?
•医師への相談:転倒の原因が身体的なものの場合、医師にどのような情報を伝え、どのような指示を仰ぐ予定でしょうか?
もし、説明に納得できないと感じたら…【施設職員が教える次のステップ】
説明を受けて納得できれば、それが一番です。しかし、中には「説明が曖昧に感じる」「『よくあることです』と軽く流された気がする」「誠実さが伝わってこない」「予防策がはっきりしない」と感じることもあるかもしれません。そんな時は、遠慮せずに、しかし穏やかに、段階を踏んで確認を進めてみましょう。
① 電話で納得できなければ「面会で直接お話ししましょう」
電話だけでは、なかなか伝わりにくいことも多いものです。もし納得できないと感じたら、面会時に直接、詳しくお話しする機会を設けてもらいましょう。可能であれば、転倒が起きた場所で、実際にどのように転倒したのか、状況を説明してもらうのも良いでしょう。実際に見て聞くことで、理解が深まることもあります。
② それでも解決しない場合は「外部の相談窓口も活用しましょう」
施設との直接の話し合いで解決が難しいと感じる場合は、施設の苦情窓口、相談員、そして「第三者相談窓口」へ相談することも検討してみてください。大切なのは、いきなり市役所や警察、行政機関に連絡するのではなく、まずは段階を踏んで相談することです。最初から強い対応をしてしまうと、施設との信頼関係が損なわれ、ご家族様が施設で過ごしにくくなってしまう可能性も考えられます。
「クレーマーだと思われたらどうしよう」と不安になるお気持ちも、よくわかります。しかし、大切なご家族の安全を守るために、予防策をしっかりと確認することは、ご家族様として当然の権利であり、責任です。遠慮しすぎる必要は決してありません。ご自身の気持ちを大切に、穏やかに、しかししっかりと向き合っていきましょう。大切なのは「責任追及」よりも「再発防止」への協力です。
まとめ:施設と家族は「チーム」!再発防止で安心を
施設からの転倒報告を受けた時に、最も大切なのは「誰かを責めること」ではありません。本当に大切なのは、「今後、同じような転倒が起きないように、どうすれば良いか」を施設と一緒に考えることです。感情的になりやすい状況ですが、冷静に「いつ」「どこで」「なぜ」「今後どう防ぐか」の4つのポイントを確認することに心を配ってみてください。
施設と対立するのではなく、ご家族様の大切な方を守る「チーム」の一員として、建設的な対話を心がけること。それが結果的に、ご家族様にとって一番安心で、安全な生活に繋がるはずです。不安だからこそ、穏やかに。遠慮しすぎず、しかし相手を思いやる気持ちも忘れずに。このバランスが、施設との良好な関係を築き、ご家族様の安全を守る鍵となります。どうか、ご家族の皆様が、安心して大切な方を施設に預けられるよう、応援しています。



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